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東京高等裁判所 昭和27年(ネ)501号 判決

控訴人等において各自金五十万円宛の担保を供するときは、原判決の仮執行を免れることができる。

二、事  実

控訴人等代理人は、原判決を取り消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする、との判決並に担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の供述は、被控訴代理人において、「合資会社日本橋東洋は昭和二十六年七月二十日被控訴会社に合併され、その一切の権利義務は被控訴会社に承継されたものである。合資会社日本橋東洋と訴外株式会社第一製作所及び増田敏夫との間には、東京地方裁判所昭和二十五年(ワ)第二八三七号建物収去土地明渡請求事件につき同裁判所が同年七月十三日言渡した確定判決(甲第九号証)が存し、当該被告たる株式会社第一製作所と原告合資会社日本橋東洋との本件土地賃貸借契約は適法に解除せられて終了した為め、右株式会社第一製作所は同原告会社に対し本件土地を明け渡すべく、又増田敏夫は不法占有者として土地所有者たる同原告会社に対し原判決掲記(一)及び(七)の各建物を収去してその敷地を明け渡すべきことを命ぜられ、右各訴外人等に本件土地占有の権限がないことは既に確定しているのである。それ故右増田敏夫若しくは株式会社第一製作所に占有権原あることを前提とする控訴人等の抗弁は凡て失当である。控訴人永代信用組合の商号変更に関する事実は認める。控訴人等の当審におけるその余の主張事実は否認する。」と述べ、控訴人等代理人において、「(一)控訴人のうち永代商工信用組合は昭和二十五年十二月十二日その商号を現在の如く永代信用組合と変更したのでこれを訂正する。(二)被控訴会社と合資会社日本橋東洋との合併の事実及び同合資会社と訴外株式会社第一製作所並に増田敏夫との間に被控訴人主張の如き趣旨なる甲第九号証の確定判決がある事実はいずれも認める。(三)然しながら右判決は当該訴訟の当事者でない控訴人等に対し直接何等の拘束力を有するものでないことは勿論であり、しかもこれは各当事者が本件土地につき至大の利害関係を有する控訴人等を害する目的を以てした通謀に因る訴訟の結果であるから、控訴人等はかかる判決に拘りなく増田敏夫が本件土地につき賃借権(若しくは転借権)を有することを主張しうべきものである。(四)控訴人等は原審以来、控訴人永代信用組合が昭和二十五年三月十六日頃被控訴人の前主合資会社日本橋東洋より増田敏夫所有の各建物を近く競落する予定の下に、予め本件土地賃借権の譲受につき承諾を得た旨抗弁したのであるが、その趣旨は同組合が建物の競落を条件として賃借権譲受の承諾を得たことを意味する。即ち同組合が増田の所有建物を競落すれば、条件は成就し本件土地の賃借権を取得しうべきところ、合資会社日本橋東洋は右競落に至ることを恐れて種々なる方法を用い公売手続の進行を阻止しているのであるから、右は民法第百三十条にいわゆる条件の成就を妨げた場合に該当し、控訴組合は右条件成就したものとみなして本件土地の賃借権を取得したことを主張しうるのである。(五)訴外増田敏夫所有の本件各建物については、昭和二十四年八月二十三日強制管理手続が開始され、建物の管理権は強制管理人の支配に移つたのであるが、これと共に当該建物敷地の賃借権も右管理人の支配下に入つたものと解すべく、従つて土地賃料の支払催告又は賃貸借解除の意思表示は強制管理人たる執行吏山内伴治に対して為されなければならぬ筋合である。若しこれ等の手続を賃借人に対して為すだけで足りるとするならば、強制管理人不知の間に敷地使用権が失われ、強制管理の目的を達することができない不当な結果を生ずることとなる。然るに被控訴人の主張する昭和二十五年五月八日の賃貸借解除、同年五月十一日及び同年十一月二十五日の各催告並に解除はいずれも訴外株式会社第一製作所又は増田敏夫に対してのみ為されたのであるから、法律上その効力を生ずるに由なきものである。(六)仮りに増田敏夫が本件土地の賃借人でなく、株式会社第一製作所が賃借人であつたとしても、増田敏夫は原判決掲記(一)(七)の建物敷地につき、同八重子は同(八)の建物敷地につきそれぞれ賃貸人の承諾を経た適法の転借権を有するものであつて、該転貸借関係はこれを被控訴人に対抗しうるのである。而して控訴人周、風間、徐は右各建物の賃借人として、控訴人永代信用組合は右(八)の建物並に敷地転借権の譲受人として本件土地占有の正当なる権限を有することを主張する。」と述べた外、原判決事実摘示と同一である。よつて原判決事実を引用する。

<立証省略>

二、理  由

合資会社日本橋東洋が東京都中央区日本橋通一丁目四番地三所在宅地百九十七坪七合八勺のうち本件の土地六十九坪一合三勺を前所有者たる訴外鹿島利右ヱ門から買受けてその所有権を取得し、昭和二十五年四月十二日同日附売買による所有権移転登記を経由したこと、右地上に訴外増田敏夫の所有にかかる(一)家屋番号同町四番の十、木造トタン葺二階建店舗一棟建坪実測二十坪七合二階十二坪(登記簿面建坪十五坪二階十坪)(二)木造トタン葺平家一棟建坪実測十七坪七合(登記簿面建坪十四坪)が存在し、控訴人永代信用組合(元商号永代商工信用組合を改称)が(三)家屋番号同町四番二十、木造トタン葺平家建店舗一棟建坪実測十四坪中二階九坪五合(登記簿面建坪十四坪)を所有すること、控訴人周、風間等が右(一)の建物のうちそれぞれ被控訴人主張の部分を、控訴人徐が(二)及び(三)の建物を占有し、以上の如く各控訴人等において右各建物を占有又は所有することにより、その各敷地たる本件土地を占有していること、及び合資会社日本橋東洋が昭和二十六年七月二十日被控訴会社に合併され、被控訴人において一切の権利義務を承継したこと等の事実は本件各当事者間に争がない。

被控訴人は控訴人等の前記土地占有はいずれも被控訴人に対抗しうべき何等の権限を有せざる不法のものであると主張するに対し、控訴人等は本件土地は、訴外増田敏夫が以前合資会社鹿島中店より賃借し、同人は(一)(二)の建物敷地につき引続き現在に至るまで適法なる賃借権を有し、控訴人周、風間、徐等は該建物の強制管理人よりこれを賃借して占有するものであり、又(三)の建物は増田の妻八重子が昭和二十三年十月五日これを建設すると共に、その敷地二十坪二合五勺につき賃貸人承諾の下に賃借権の譲渡を受けたところ、控訴組合は昭和二十四年七月三十日増田敏夫に対する金六十万円の貸金債権の代物弁済としてその所有権を取得すると同時に、該敷地賃借権の譲渡を受けたものであるから、控訴人等の土地占有は凡て正当の権限に基くものであると抗争する。かように控訴人等が本件土地占有の権限として主張するところは、訴外増田敏夫と合資会社鹿島中店との間に土地賃貸借契約の成立したことを前提とするものであるが、控訴人等の主張する右賃貸借成立の事実は証拠上到底これを認め難く、訴外増田敏夫は同人の主宰する株式会社第一製作所の代表者として鹿島利右ヱ門の管理人たる合資会社鹿島中店との間に本件土地の賃貸借契約を締結し、同人個人としてこれにつき連帯保証をしたものであり、右賃貸借は成立に争のない乙第九号証により認むべき株式会社第一製作所の定款記載の目的(電気機器並に航空機部品代用ベルトの製造販売等)自体から観察し、その目的たる事業の遂行上必要なるものというべく、これを目して会社の行為としてはその目的の範囲外に渉る無効のものであるとすべきでないことは正に原判決の説示するとおりである。当裁判所の認定は原判決と符合するので、この部分に関する原判決理由を引用する。なお附言するに、成立に争のない甲第四号証の賃貸借公正証書の第一条に「増田敏夫ハ之ヲ賃借シタリ」とある字句は、本来「株式会社第一製作所ハ之ヲ賃借シタリ」とすべきところを誤記したにすぎぬこと、同条の文言自体その他該公正証書全体の趣旨に照して極めて明瞭であり、増田敏夫に宛てた甲第六、七号証の各一に「従来貴殿と賃貸借契約中の」とか「貴殿賃貸地」とあるのも、前記の如く増田が株式会社第一製作所を代表して本件土地を賃借した関係上、誤つてかように記載するに至つたものと認むべきである。控訴人等が当審に至り新に提出並に援用する各証拠を以てしても前記認定はこれを覆すに足らず、却つて当審証人宍室六三郎の証言は増田敏夫でなくして株式会社第一製作所が賃借人であるとの認定を支持する強力な資料となすことができる。然らば控訴人等の前記抗弁は理由なく、控訴人等の当審における抗弁(四)もひつ竟増田敏夫に賃借権の存することを前提とするものであるから、これ亦採用に値しないこと論を俟たない。

控訴人等は更に株式会社第一製作所が本件土地の賃借人であるとしても、増田敏夫同八重子は賃貸人である合資会社鹿島中店承諾の下に本件土地を転借し、それぞれ該地上にその名義に登記された建物を所有するものであつて、右転貸借関係はその後に本件土地を取得した合資会社日本橋東洋の承継人たる被控訴人に対抗しうべく、従つて該建物の賃借人として敷地を占有する控訴人周、風間、徐等も、増田八重子所有の前掲(三)の建物と共に敷地転借権の譲渡を受けた控訴人永代信用組合も、本件土地占有につき正当の権限を有する旨主張し、右転貸並に承諾の事実及び転貸地上に保存登記を経た本件(一)(二)(三)の各建物が存することは、いずれも被控訴人の認めるところであるけれども、被控訴人は株式会社第一製作所との間の基本たる賃貸借契約は昭和二十五年五月八日限り既に解除により終了し、その旨の確定判決すら存するのであるから右転貸借に基く控訴人等の主張は失当であると主張する。ところで成立に争のない甲第九号証によれば、合資会社鹿島中店と株式会社第一製作所間の本件土地賃貸借関係を承継した新所有者合資会社日本橋東洋が、昭和二十五年五月八日右鹿島中店を代理人として株式会社第一製作所の賃料不払を理由に賃貸借契約を解除し、次で同会社に対し右解除による原状回復義務の履行として本件土地の明渡を求め、増田敏夫に対しては所有権に基き不法占有を理由に本件(一)(二)の建物の収去並に敷地四十五坪の明渡を求める訴を提起し、東京地方裁判所において同年七月十三日原告(合資会社日本橋東洋)全部勝訴の判決が言渡され、該判決は上訴の提起なくしてそのまま確定するに至つたこと(右趣旨の判決確定の事実は争がない)が明かである。而して民事訴訟の建前として、判決の既判力が及ぶ範囲は訴訟の当事者及びその承継人の間に限られ、直接第三者に対してはその拘束力が及ばないのが原則であるけれども、第三者の法律的地位が訴訟当事者の有する法律的地位を基礎とし、これに附随してのみ成立し、その成否が専らこれに依存する関係に置かれているような場合には、該当事者間における基本たる法律関係の終了が判決を以て確定された以上、その反射的効果としてこれに依存する第三者も自ら右基本関係の消滅を承認せざるを得ない結果となり、かかる基本関係について為された確定判決に拘りなく、附随的な法律関係のみが依然存続すると主張することは許されないものと解すべく、本件は正にこれに該当する一事例に外ならない。即ち土地の賃貸借契約が終了すればその基礎の上に築かれた転貸借関係も亦従つて終了すべく、又建物の賃借人が敷地を占有するのは、建物所有者の有する敷地使用権の範囲においてするものであり、これと独立して土地使用の権限を有するのではないから、転貸人又は建物所有者の土地使用権を否定する趣旨の判決確定するときは、転借人又は借家人は該判決の反射的効力を受け、その結果転借権又は借家権に基く土地使用の権限を主張し得ないこととなる筋合である。然るところ、本件においては前示の如く被控訴人の被合併会社たる合資会社日本橋東洋と株式会社第一製作所間の確定判決により、既に株式会社第一製作所は賃貸借終了による原状回復義務の履行として本件土地を合資会社日本橋東洋に明け渡すべきことを命ぜられているのであるから、右株式会社第一製作所より該土地の転借を受けたとする訴外増田敏夫又は増田八重子の転借権に依拠する控訴人等としては、右確定判決の趣旨に反し、被控訴人と株式会社第一製作所との間に依然本件土地の賃貸借契約が存在し、従つて増田敏夫等の転借権もなお存続するものと主張することは許されないし、まして右増田敏夫自身も同じく確定判決により不法占有者として本件(一)(二)の建物収去並に敷地明渡の義務を有するものである以上、増田所有の右建物を賃借したと主張するにすぎない控訴人周、風間、徐等が被控訴人に対しその敷地使用の権限を対抗し得ないことは多言を要しないところである。それ故合資会社日本橋東洋が昭和二十五年五月八日株式会社第一製作所に対して為した本件土地の賃貸借契約解除が無効であるとして、該賃貸借の存続を主張することに帰する原審並に当審における控訴人等の各抗弁は凡て失当として排斥せざるを得ない。控訴人等は右判決は当該訴訟の当事者が控訴人等を害する目的を以てした馴合的訴訟によるものであると主張するけれども、かかる事実を認むべき的確の証左なく、却つて原審証人増田敏夫(第二回)及び当審証人吉田正一の各証言によれば、増田は当時株式会社第一製作所が多額の賃料を延滞してこれが支払を為す資力なく、賃貸借契約を解除されるのも止むを得ないと観念していたが為め、該訴訟において強いて抗争しなかつたのであり、別段控訴人等を害する目的を以て相手方と通謀したものでないことが窺い得られるのである。それ故本訴請求は被控訴人が増田敏夫と通謀の上、多額の対価を支払つて本件建物に関する権利を取得した控訴人等を放遂せんと企てるものであつて、権利の濫用に外ならないとの控訴人等の主張も、これを裏付ける資料なく、到底採用に値しない。

これを要するに、控訴人等が本件土地占有につき所有者たる被控訴人に対抗しうる権限ありと主張するところは結局一も採用することはできないので、該占有は不法のものという外なく、控訴人周、風間、徐等に対し本件(一)(二)(三)の各建物退去並に敷地明渡を求め、控訴人永代信用組合に対し前記(三)の建物収去並に敷地明渡を求める被控訴人の請求は正当として認容すべきである。右同趣旨に出た原判決はもとより相当であつて、本件控訴は理由がない。よつて控訴を棄却すべきものとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を、仮執行免脱の宣言につき同法第百九十六条第二項を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 薄根正男 岡崎隆 奥野利一)

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